toggle
くにみ台薬局は 保険調剤・在宅医療・医薬品の供給を通じて社会に貢献します

やけど

 原因は時代によって変わる 
 暖房器具を使う季節になるとヤケドが多くなります。ヤケドは応急処置を誤るととりかえしがつかなくなることもあり、軽症でも十分な処置を行ってください。小さいお子さんのいる家庭では予防策も必要です。 ヤケドの原因も時代によって変遷があります。かつてはよく見られた労災によるヤケド、溶鉱炉に落ちたり、溶けた亜鉛が長靴の中に入ったといった重症例は少なくなりました。これは社会の成熟とともに安全面が強化されるようになったためです。
 かわって火災や自殺によるヤケドが増えています。火災の場合、一酸化炭素中毒で亡くなる人が多いのですが、病院に運ばれてくるのは新建材の有毒ガスを吸入し、気道熱傷を起こしたケースが多く、自殺はガソリンをかぶって火をつけたケースか目立ちます。
煮立った鍋をひっくり返したり揚げ油が飛んだといった家庭内ヤケドの発生率は昔も今もあまり変わりません。ただし、ポットのヤケドはポットが改良されたことで、風呂桶に転落して負う大ヤケドは風呂の蓋か改良されたことからいずれも少なくなっています。
 ヤケドは小さい子供に圧倒的に多く、次いで主婦です。事故はお母さんが夕食の支度で忙しい時間帯に多発します。

 応急手当ては流水で冷やすこと 
 ヤケドをした場合、まず真っ先にすることは冷やすことです。水道水を出しっぱなしにして30分ほど冷やします。冷やすとヤケドによる痛みか薄らぎ、皮層の熱が深部に到達するのを防ぎます。 また化学薬品によるヤケドの場合、薬品を洗い流す効果もあります。
 手や指ならそのまま蛇口で冷やし、衣服の上からヤケドを負った場合は、化繊なら皮膚にくっついてしまいますから、無理にはがさず衣服の上から冷やします。 無理にはがすと表皮がはがれて、細菌感染しやすくなるからです。簡単に脱げるものは別として、脱ぐのに手間取る場合はハサミで衣服を切り離します。
 冷やしたら患部を清潔なタオルで包み、病院に行くように。ヤケドした部分はなるべく清潔な状態を保つことかポイントです。その際勝手に薬や油などを塗らないでください。昔はチンク油や馬油、ひどい場合はしょうゆや味噌を塗って病院に来る人がいました。これは細菌感染のもとですから、禁物です。

 全身療法と「9の法則」 
 ヤケドも軽いものなら冷やして塗り薬かバンソコウを貼るだけでかまいませんが、手の広さ以上なら局所治療を受ける必要があります。救急車を呼び、救急救命センターで全身療法を受けるかどうかの判断基準に「9の法則」かあります。これは頭、腕、胴体の面積を9の倍数で示したもので、例えば、片腕、片方の大腿、下肢、頭部全体の面積は9%。胸腹部や背部は18%です。手の平が体表面積の1%ですから、これでおおよその見当はつきます。
   大人は全体表面積の20%、幼小児なら10%以上のヤケドなら全身療法が必要です。
 ヤケドは面積もさることなから深さも間題てす。皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層に分かれ、表皮だけ熱作用を受けたものはI度で日焼けと同じく皮膚か発赤した状態です。
真皮にまで達したものはⅡ度ですが、軽いⅡ度と重いⅡ度があり、前者は真皮のほんの一部、後者は真皮の深い部分まで損傷が及んだ場合です。 重いⅡ度は治療に時間かかかりヤケド痕が残ることもあります。皮下組織にまで熱作用がおよぶとⅢ度になり、治りにくく、ケロイドとして痕が残ります。
 ヤケドした瞬間、軽いと思っても翌日水泡ができることかあるので、注意が必要。これは熱作用が真皮まで及ぶためで、これを防ぐためにも瞬間的に冷やす必要があるのてす。 ヤケドによる全身的影響は深さより広さのほうが深刻です。もちろん同一面積なら深いほど重症ですが、狭い範囲のⅢ度と広いⅡ度なら後者のほうが重症といえます。

 人工皮膚による治療 
 ヤケドの一番の問題は感染です。いかに感染を防ぐかが治療のポイントになります。さらに、ショック症状の克服も重要課題です。ヤケドをすると、血管からセロトニンやヒスタミンなどの物質が放出され、そのために血管壁の透過性か高まり、血液中の水分が血管の外に出て、全身浮腫が起こります。すると循環血液量は減り、血圧は下がります。これがヤケドのあとのショック症状です。
 体液流出による消耗を防ぐため1万~1万5千ccといった常識では考えられないような水分補給が必要になります。それも時間経過によって輸液の成分や量を変えなければなりません。このため、専門家のいる熱傷センターか熱傷ユニットのある病院で治療を受けるのが望ましいのです。 皮膚の損傷からくるショックを防ぐためには皮膚のかわりになるもので受傷面を覆う必要があります。体液の流出をコントロールし、痛みをやわらげ、雑菌を遮断するなどの目的で用います。人工皮膚にはアーティフィシャルスキン(人工材料による皮膚)とバイオロジカルスキン(生体材料による皮膚)のニつがあり、前者はさまざまな材質のもの、後者は異種の動物の皮(豚や犬)と同種(ヒト)の皮膚かあります。最もいいのは自分の皮膚ですが、これは組織培養に3週間ほどかかり、しかも3倍程度にしか増えないため、広範囲のものでは間に合いません。スキンバンクの設立が注目されていますが、皮膚の入手が困難な点では他の臓器移植と同様です。
 現在ではヤケドの程度に応じて人工材料、生体材料、生体材料でも親族の皮膚、自分の皮膚、異なる2つの材質を用いたハイブリッド型人工皮膚などケースバイケースで治療効果を高めています。

関連記事