toggle
くにみ台薬局は 保険調剤・在宅医療・医薬品の供給を通じて社会に貢献します

喫煙と健康

 喫煙と健康 
 5月31日が世界保健機構(WHO)が提唱している世界禁煙デーってことをご存じでしたか? 喫煙が身体に良くないってことは何となく知っていても、喫煙の実害に対してあまり興味を持っていない方が多いのではないでしょうか? そこで今回は喫煙が身体におよぼす害についてご紹介いたします。

喫煙の弊害は古今東西を問わず、広く知られています。貝原益軒(かいばらえっけん)は「ようじょうくん養生訓」(1713年)の中で、次のように急性毒性、慢性影響、火災、そしてタバコ(ニコチン)依存症を注意して禁煙を説いています。
姻草は性毒あり。烟をふくみて、眩(めま)ひ倒るる事あり。習へば大なる害なく、少は益ありといへども、損多し。病をなす事あり。又火災のうれひあり。習へばくせになり、むさぼりて、後には止めがたし。」(岩波文庫、石川謙校訂『養生訓・和俗童子訓』)
1930年代頃より、喫煙の健康影響に関する科学的解明が試みられるようになり、今日にいたるまでおびただしい証拠が積み重ねられています。その影響は思いのほか重大で、広範囲の健康影響が吸う本人におよび、さらには周囲の吸わない人びとにまでおよぶ事実が明らかにされ、世界各国は公衆衛生上の重要問題として、喫煙対策に取り組むようになりました。

 タバコ煙中の有害物質 
 タバコの煙は粒子相と気相から成り、数千種類もの化学物質を含みます。その主な有害物質は、発がん物質、一酸化炭素、ニコチン、刺激性物質です。

発がん物質
 タバコ煙には多種類の発がん物質が含まれています。その主なものはベンツピレンをはじめとする多環芳香族炭化水素、ジメチルニトロサミンなどの芳香族炭化水素、β-ナフチルアミンなどの芳香族アミン、ウレタン、ニッケル化合物、カドミウム、ヒ素などです。これらの発がん物質により、肺がんのほか、口腔咽頭、食道、胃、肝、膵、膀胱などの各種がんのリスクを高めます。最近、白血病とくに骨髄性白血病のリスクを示す疫学研究結果が相次いで発表され、タバコ煙中のベンゼン、ポロニユゥム210の発がん作用が疑われています。そのほか、子宮頸がんのリスクも示唆されています。

 一酸化炭素 
 紙巻タバコ喫煙者は、少なくとも100ppmの一酸化炭素を肺胞内の血液にさらすといわれています。ほんらい酸素を運ぶ役目を果たすヘモグロビンは、一酸化炭素との結合力が非常に強い(酸素の120倍)ため、タバコを吸うと煙の中の一酸化炭素と結合してしまい、からだの細胞に十分な酸素を供給できなくなります。それにより、少し運動しただけで息切れしたり、心臓病の人では弱った心臓にさらに負担を与えます。妊婦がタバコを吸えば、胎児は酸素欠乏症に陥って発育が遅れます。脳での酸素欠乏は精神機能を低下させます。さらに、一酸化炭素は血しょうの血管膜透過性を高め、血管壁を傷つけて動脈硬化をもたらします。フィルター付きタバコはタール排出量が少ないので発がんリスクを下げますが、フィルターによってタバコの燃焼温度が低下するため、一酸化炭素の排出量が増え、心臓血管病のリスクを高めてしまいます。

 ニコチン 
 ニコチンはタバコだけに含まれる物質で、毒性は強力です。ニコチンの致死量は成人で20~30mgといわれ、これは紙巻タバコ20本分に相当します。煙に含まれるニコチンは、一部は口腔粘膜から、大部分は肺を通してすみやかに吸収されます。ニコチンは自律神経を刺激して血管を収縮させる作用が強く、血流の減少をきたし、タバコを一本吸うと、ただちに血圧は10~15%上昇し、脈拍は40%増加して心臓に負担を与えます。また、皮膚血管を収縮させるので皮膚温が2~3度低下し、皮膚の老化を促進するため、女性にとってタバコは美容の敵といえるでしょう。ニコチンは胃粘膜の血流を阻害し、胃液の分泌を亢進させ、十二指腸から胃に胆汁を逆流させるので、胃潰瘍の発生・再発を招きます。そのほか、タバコが切れて生じる精神不安定な状態を俗に「ニコチン中毒」といっているように、タバコへの依存性の原因がニコチンにあることも忘れてはならない点です。

 刺激性物質 
 煙が目にしみる」(Smoke get in your eyes)と歌の題にもあるように、タバコ煙の気相にあるホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレインなど、粒子相にあるフェノールやクレゾールは、目、鼻、気道などの粘膜を刺激するだけでなく、気道粘膜上皮の線毛を破壊します。これらの刺激物質によって線毛が脱落すると、呼気中の塵挨や細菌を外部に排出できなくなることから、細菌感染をくり返して慢性気管支炎、肺気腫となり、やがて肺炎をおこして死にいたることもあります。

 能動喫煙 
 たばこを吸ったことがない人、むかし吸っていたけど止めた人、吸っている人の3グループで、 10年間の死亡率を比べてみたところ、たばこを吸う人の死亡率は、吸ったことがない人と比べて、男性では 1.6倍、女性では1.9倍と高いことが分りました。死亡原因ごとにみると、たばこを吸う人の死亡率は、がん(男性 1.6倍、女性1.8倍)、心臓病や脳卒中などの循環器疾患(男性1.4倍、女性2.7倍)、その他の死因(男性1.6倍、 女性1.4倍)のいずれでも高くなっていました。一方、たばこを止めた人の死亡率は、全死因、がん、循 環器疾患のいずれでみても、吸ったことがない人との差は認められませんでした。
若い女性の喫煙の場合、女性自身の健康と妊婦の喫煙による胎児への影響が憂慮されます。世界各国の多数の疫学資料を総合すると、喫煙妊婦では非喫煙妊婦にくらべ、赤ちゃんの出生体重は約200g少なく、低体重児(2500g未満)のリスクが1.6~2.2倍高くなります。そのほか早産、死産、流産、妊娠合併症のリスクも上昇します。喫煙による胎児の発育障害の理由として、1) 一酸化炭素ヘモグロビンによる胎児の酸素欠乏症、2) ニコチンによる胎盤血流障害、3) 妊婦の食欲減退による胎児への栄養供給低下などが考えられます。

 受動喫煙 
 タバコを吸わない人が職場、家庭、乗り物の中で、タバコの煙を知らず知らずのうちに吸ったり、不快な思いで吸わされています。これを「受動喫煙」(passive smoking)または「強制喫煙」(enforced smoking)ともいわれています。受動喫煙の健康影響については、血圧上昇、心拍数上昇、皮膚温低下、肺機能低下などの急性影響や眼、鼻、気道の不快な粘膜刺激感や頭重などの自覚症状、さらには自動車運転能力低下、狭心症発作促進も知られています。慢性影響では、親(とくに母親)の喫煙と乳幼児の気管支炎、肺炎の関係が一貫してみられています。成人では、職場の受動喫煙と小気道障害の関係が報告されています。このように、受動喫煙による各種の影響が知られていますが、社会問題として大きくクローズアップされた最大の契機は、肺がんや心臓病などの重大な疾患への影響が相次いで報告されたことです。夫から妻、妻から夫への、夫婦間の受動喫煙による肺がんの相対リスクは1.5倍と推定され、これは1日2~3本の能動喫煙によるリスクに匹敵します。 最近では、妊婦が家庭や職場などで長時間、タバコにさらされると、妊婦自身による喫煙と同様に、胎児の発育障害を招くとする報告もあります。このように、吸わない人にまで健康影響がおよぶ事実は、喫煙対策が公衆衛生上の重要課題であるとの認識を社会に広め、具体的な措置として、喫煙空間の非喫煙空間からの隔離・分離と換気の励行などが実施されています。公共輸送機関や公共場所の分煙措置は比較的進んでいますが、職場では人間関係上の問題もあってか進展していないようです。

 禁煙による健康改善 
 禁煙により肺がんをはじめとする喫煙関連がん、虚血性心臓病、慢性閉塞性肺疾患、末梢血管閉塞疾患、動脈瘤、胃潰瘍のリスクが低下することが知られています。さらには呼吸器症状や呼吸機能の改善、心筋梗塞や脳卒中のリスク低下のほか、妊婦の禁煙による胎児の発育改善効果も明らかにされています。

 喫煙対策 
 日本の最近の喫煙状況を概観すると、タバコ製造販売の民営化(1985年)にともなう外国タバコの進出によって、タバコ消費における男性の減少傾向に歯止めがかかり、女性では上昇傾向がうかがえます。さらには、未成年者のタバコ消費の上昇も推測され、タバコ病の増加が危惧されています。 喫煙対策は、禁煙、防煙(青少年の喫煙防止)、分煙を3本柱として進められつつあり、WHOは毎年5月31日を世界禁煙デーとして、各国に喫煙対策をはたらきかけています。日本の喫煙対策の状況を概観すると、分煙はいくぶん進んではいるものの、禁煙や防煙の対策はあまり進展していません。その理由として、1) タバコ業界の激しい販売促進活動、2) 国および自治体のタバコ税収への依存体質、3) タバコの心理・薬理的依存体質の強固さがあげられます。今後はマスメディアによる大衆教育、学校における喫煙防止教育、保健医療現場における禁煙指導はさらに押し進める必要があります。 アメリカでは法律により、1971年にテレビ、ラジオのタバコ広告を禁止しており、1985年には明確な健康リスクならびに有害成分の表示をタバコ包装紙や広告物に表示することを義務づけています。 日本でも、今後、健康リスク・有害成分の表示、テレビ・ラジオの広告、自動販売機の設置については、より強固な法的規制措置を早急にとる必要があるのではないでしょうか。

関連記事